沖縄の美しい海を守りたい
ブセナ海中公園の位置する沖縄本島西海岸エリアは沖縄国定海岸公園に指定されています。その中でも特に海中景観の素晴らしさが認められ「海域公園地区」という特別区に指定されています。
ブセナ海中公園は1970年8月の開業以来、「沖縄の最も重要な観光資源である海の魅力を沖縄県民並びに国内外の観光客に伝え、またサンゴ礁をはじめとする自然環境の保全に努める」をキャッチフレーズとして、多くのお客様にご利用していただきました。
しかし、1980年代に発生したオニヒトデによる食害、地球温暖化に伴う海水温の上昇、河川からの赤土流入などにより、沖縄のサンゴ礁は壊滅的な被害を受けました。
ブセナ海中公園の海中展望塔やグラスボートから観察できるサンゴ類も減少しています。
サンゴ礁は沖縄の海で非常に重要な役割を担っています。
サンゴ礁に依存して生きている生物達は、サンゴが消滅すると消えてしまいます。魚類、貝類、甲殻類など、生物多様性に富んだ生態系の中心にいるのがサンゴです。
ブセナ海中公園の周辺海域では、ここ10年ほどの間にサンゴが復活しつつあります。
潮通しの良い海域では、以前のような健康状態の良いサンゴの群落があり、サンゴに依存する他の生物も観察できます。
しかし、少し離れた場所では荒涼とした何もない海底が広がっており、サンゴが生息していない場所では他の生物もあまり見られません。
サンゴが密生している場所では、その他の生物も多い。
沖縄の海の特徴である美しい海中景観や生物多様性の中心となっているのがサンゴである。
サンゴが生息していない場所では、生物相が貧弱となる。
サンゴは生態系のベースとなっている他にも、台風時に高波の力を弱める防波堤としての役割、骨格が細かくなり美しい砂浜を形成する役割がある。
また沖縄観光の最大の魅力の1つでもある。
2020年はブセナ海中公園が開業して50周年となる節目の年でした。 OCVBが実施するSDGs活動の一環として、また開業50周年記念事業として、ブセナ海中公園では「養殖サンゴ植付計画」を策定し、サンゴ保全活動に取り組んでいるNPO法人コーラル沖縄を共同事業者として、本格的なサンゴ植付を実施することを決定しました。
ブセナ海中公園は一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー(以下「OCVB」と表記)が管理・運営を行う観光施設です。
OCVBは 2021年2月1日、沖縄県の「おきなわSDGsパートナー」として登録されました。
沖縄県へ提出したSDGs計画書の中では、ブセナ海中公園の自然環境の保全についても力を入れることを明記しています。
OCVBがおきなわSDGsパートナーに登録されました。
memo
現在、様々な団体がサンゴの植付や移植活動を実施していますが、サンゴ植付には確立された手法や技術がありません。サンゴ植付後にはモニタリング調査を実施しますが、生存率が0%という失敗事例も多数あります。サンゴは非常にデリケートな生物であるため、環境が合わない場所ではうまく生育できません。 植付場所の選定では、水深、水質、水温、潮の流れ、海底の状態、他の生物による食害の有無など、様々な視点から検討する必要があります。
また、将来的にブセナ海中公園の利用者が植付サンゴを観察できるよう、アクセスがしやすい場所であることも条件の一つとなります。
複数の条件を兼ね備えた場所として、グラスボートの発着場所から近い場所でサンゴ植付を実施することを決定しました。
水深3m程度、突堤から近いため植付作業やモニタリング調査が容易である。
海底の地形がほぼフラットで岩盤質でありサンゴ植付に理想的である。
近くに良好な状態のサンゴ礁があり、サンゴが生育できる環境が整っている。
潮通しが良く、夏場の高水温時でも白化現象が発生する可能性が低い。
サンゴ食害生物であるオニヒトデ、レイシガイダマシ類、ブダイ等が少ない。
ドナー(親サンゴ)の入手が容易であり一般的な種類のサンゴであること。
遺伝的に近いサンゴであること(ルーツが沖縄本島西海岸であること)
信頼できる養殖場で増やしたサンゴであること。
過去に移植や植付が行われた実績があり、ブセナ海中公園でのサンゴ植付後に生存する可能性が高い種であること
memo
サンゴ礁学会のサンゴ移植ガイドランでは「サンゴ礁生態系の遺伝的攪乱に最大限注意すること」としています。沖縄県内でサンゴ苗を育成可能な施設は複数ありますが、サンゴ苗の育成は宜野湾マリン支援センター(通称:まりりん)で行います。同施設では宜野湾市、宜野湾市観光振興協会、漁業協同組合、地域マリン事業者などと密着したサンゴ保全活動を展開しています。
宜野湾マリン支援センターには1t水槽が4基あり、近隣の海域から海水を組み上げる取水システムを備えています。自然環境に近い海水でサンゴ苗を育てることが可能です。
第1期の作業(2021年3月21日)は、まりりん近隣の住民や子供達にも参加してもらい、二種類のサンゴ約50本をサンゴ苗として準備しました。
数cm片に株分けしたサンゴを琉球石灰岩プレート(基盤)に乗せて、天然ゴムで固定します。この状態で2~3ヶ月ほど水槽で飼育すると、皮膜が形成されてサンゴが基盤に活着します。
固定作業では、サンゴへのダメージを最小限におさえるため、水中で手早く作業を行います。 また、天然ゴムで固定する際には、サンゴの形状をよく見てどのように基盤に乗せると接着面積が大きくなるのかを考えます。
工法
養殖サンゴ植付には様々な方法がありますが、成功事例が豊富でブセナ海中公園のサンゴ植付に適している「ボンド法」を採用しました。二種類のボンドを混ぜ合わせることにより20分ほどで硬化します。
第1期のサンゴ植付作業は、2021年7月7日に行われました。海に入る前にサンゴ植付に関するブリーフィングを行います。5名でサンゴ植付作業をしました。
安全に配慮して海中で時間内に作業を終わられるよう、植付場所や作業手順の確認など入念な打ち合わせを行い作業しました。
ステップ1
ブセナ海中公園の突堤からエントリーします。沖合15mにある植付場所まで、慎重にサンゴ苗を運びます。
ステップ2
サンゴを植え付ける前に、植付場所のコケ取り作業を行います。接着面に藻類やゴミ等があると水中ボンドがうまく接着できないため、ブラシを使って植付場所の表面を綺麗にします。
ステップ3
コケ取り作業後、海中で素早くボンドを混ぜ合わせてサンゴ苗の基盤の下側にボンドを付けます。1つのサンゴ苗に必要なボンドの量はゴルフボール大程度です。
ステップ4
サンゴ苗と海底を水中ボンドで接着します。水中での作業は難しいですが、できるだけ体重をかけて圧着するようにします。うまく接着しない場合は、植付場所を微調整して新しい水中ボンドを使ってやり直します。
養殖サンゴ植付では、植え付けた後に成長や生存率などを調べるため、定期的なモニタリングを行うことが重要です。
ブセナ海中公園では、サンゴ植え付けから1週間後、1カ月後、3カ月後、6カ月後、1年後、その後は1年毎にモニタリング調査を実施することとしています。モニタリング調査の結果については、下記から参照して下さい。
第1期のサンゴ植付作業(2021年7月7日)では、シコロサンゴ30個、エダコモンサンゴ20個、
合計50のサンゴ苗の植付を行いました。
1週間後生存率 100%
2021年7月14日 【天候:晴れ】
1カ月後生存率 80%
2021年8月11日 【天候:曇り】
3カ月後生存率 56%
2021年10月5日 【天候:晴れ】
6カ月後生存率 24%
2022年1月25日 【天候:晴れ】
ブセナ海中公園の50周年記念事業としてスタートした養殖サンゴ植付計画ですが、まだ活動をスタートしたばかりです。豊かなサンゴ礁と生物多様性を取り戻すには、活動を継続しつつ規模も拡大する必要があります。どのようにしてサンゴ保全活動に必要な予算を確保するのか、また近隣の事業者や研究機関などと連携しながらサンゴ植付の手法についても研究する余地があります。
(一財)沖縄観光コンベンションビューロー ブセナ海中公園事業所
沖縄県名護市字喜瀬1744-1TEL.0980-52-3379FAX.0980-53-0675